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インサイドキックのポイントはボディシェイプ [コーチの連載ブログ]

昨年、Jリーグの研修会でアルゼンチンのコーチと話をする機会がありました。
彼は練習を見ながら苦い顔で私にこう語りかけました。

「日本人の子どもたちは巧い。技術力もある。でも、なぜつなげる場面でターゲットになるプレーヤーを越えるように前方へ蹴ってしまうのか? なぜ簡単にボールを浮かしてしまうのか?…私の国でも、ボールを浮かす子どもはいる。そういう時は“ボールは何から出来ている?”と尋ねるんだ。子どもたちは“動物の皮”と答える。すると、私はこう返すのさ。“そう牛の皮だ。ところで、牛って空を飛ぶかな。彼らは歩いていく、走っていくだろ。だからボールも同じように地面を転がしてあげようよ”」

彼の母国では子供たちにこんな言い回しで説明しているらしいのです。現代サッカーにおいて育成世代で求めることは、南米でもヨーロッパでもそんなに大きな違いはないはず。同じことを注意するのにも、わかり易い身近な例えの引用でいろいろなアプローチができるということなのですね。こんな言葉で、グラウンダーのパスでつなぐ大切さを強調し、更にインサイドキックの重要性ということも暗示していたのかもしれません。インサイドキックの本質については、意外と見落とされているような気がします。基本的な蹴り方なのですぐに身につけたように思っていても、実はそれほど簡単ではなく、奥が深いものなのです。

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インサイドキックのメリットは近い距離に正確に蹴れること。基本的なフォームでは顔を向けた方向にパスを出すので、受け手と送り手の意思が通じやすいことです。デメリットは、方向が読まれ易いことで、対戦相手にも奪われる危険性も高いということ。同じ理由でメリットとデメリットの二面性があるため、相手の意表を突きたいシーンでは、あまり適当ではないかも知れません。

蹴り方の基本は、立ち足をボールの横に置いて、そのつま先はキックする方向へ向ける。蹴る足は、直角に足首を固定してボールに当てる。たぶん、そんな表現で教わっていると思います。 ただし、インサイドキックの練習でも、すでに基本を理解した高学年に対しては、『ボディシェイプ』ということを意識させることが重要だと私は考えます。これは次のプレーを想定して体の形をつくること。言い方を換えればボールに対して相応しい“面”を作ることです。パススピードや精度を求めるのであれば不可欠であると思います。アイディア次第では相手に読まれにくいインサイドキックのバリエーションやフェイントとしても使うことができます。

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例えば、自分の右横からボールが来たとします。それをインサイドキックで前方に送ることも出来るし、左に蹴るケースもある。右にリターンする選択肢もあるでしょう。そのためには、足首の固定やつま先を向けるといった下半身だけでなく、ボールが来る前に上半身も含めた体全体の面づくりが必要になるのです。もちろん、強い正確なパスを送れるプレーヤーになるためには反復練習がベースです。日本人選手はインサイドキックが下手だと言われます。

特に、グラウンダーで転がる軌道の力強さが、ヨーロッパや南米の選手たちに比べて劣っているとの論評が少なくありません。確かにそうなのですが、インサイドキックだけを取り出しての結論には、私は反対です。インステップキックは巧いのでしょうか? アウトフロントなら外国人より優れていますか? キックの技術はトータルで評価するもの。インサイドが下手なのでなく、キックそのものをもっと上達させなければならないのです。もちろん、これは個人的なもので、中村俊輔選手のように、ヨーロッパでも高い技術を称賛されている日本人プレーヤーもいます。ただ全般的には、残念ながらまだ本場とはレベルの差があると言わざるを得ません。

 インサイドキックを見直すこと。それはキックの技術全体を点検することにつながるのだと思います。Jリーガーのインサイドキックは、どれぐらいのレベルなのか? 高校生は? 中学生は? 小学生は?…こんな視点から試合を見るのも一興ではないでしょうか。

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Written by 下條 佳明(育成・普及本部 CPO)

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